数年前はお笑い芸人たちと一緒に『1泊2日』に出演して厳しいミッションに挑戦させられ
一躍番組の人気キャラクターになったりしてた彼。
名優チャ・スンウォン氏と共に出演したバラエティ『三食ごはん』では、
親父ギャグの大家として、粘り強い釣り師として、仕事熱心な農民として、
ファンに庶民的で可愛らしい一面を見せてくれていた韓国の個性派俳優、ユ・ヘジン氏が
凄腕の殺し屋役に挑戦したシリアスコメディの人生逆転劇「ラッキー」。
2016年制作の韓国映画で、原案は、内田けんじの2012年監督作品『鍵泥棒のメソッド』。
殺し屋役のユ・ヘジンの脇を固めるのは、
歌手兼業から近年完全に役者に転向した『俳優は俳優だ』などに出演のイ・ジュン、
『朝鮮魔術師』、テレビドラマ『棚ぼたのあなた』に出演のチョ・ユニ、
『人間中毒』で思い切った演技を見せてくれたイム・ジヨンだ。
そして『野獣と美女』などの作品でメガホンをとったイ・ゲビョクが監督を務めている。
物語の始まりは夜の雨の街。
誰からのどんなに困難な依頼も決して失敗したことのない凄腕の殺し屋ヒョヌク(ユ・ヘジン)は、
この日も無事に仕事を終わらせ、停めていた車に乗り込む。
雨が降り続く深夜の街に彼の乗る高級車の低いエンジン音が消えて行き、
殺された人間のものなのか、道にはキャリーバックと傘が残され…
ある日の事。
その日もヒョヌクは仕事を無事に終わらせ、体を清めるために銭湯に立ち寄る。
しかしあやまって石鹸を踏んでしまい転び、風呂場の硬い床に後頭部を強打し記憶喪失に陥ってしまう。
頭を洗いながらその一部始終を横目で見ていたのは、
仕事が無い自分に嫌気がさし、借金に追われて自殺を図ったものの死にきれなかった
売れない貧乏俳優ジェソン。
転んで気絶した拍子にヒョヌクが落とした鍵を手にした彼は、
風呂場から出るとロッカーに行き、ヒョヌクのロッカーの鍵を自分のものとすり替えてしまう。
そしてヒョヌクの高級ブランド品に身を包んだジェソンは「凄腕の殺し屋ヒョヌク」として、
一方の記憶を失ったヒョヌクはなんだか分からないままに、
まったく売れない俳優ジェソンとして生きていくことになるのであった。
生来の完璧主義者であったヒョヌクは、やる事なす事が見事にハマって
一躍売れる役者としての道を歩み出すのだが、
ヒョヌクになったジェソンは闇の深い裏社会の訳の分からないトラブルに巻き込まれて行く事になる。
引き込まれまる展開
のっけから殺し屋の仕事を思わせるシーン。
古臭いロック演歌調のテーマソングが、この映画はただのアクション映画ではない事を匂わせる。
続いて主人公の突然の記憶喪失へとつながり、人間の入れ代りへと続くバタバタとした展開。
全く変わってしまった環境の中で二人はどう順応していくのだろうか。
かたやは記憶を失ったとは言え、計画的に物事を進め、先を読みながら仕事を進めるタイプ。
もう一人は行き当たりばったりで感覚に任せて動くタイプ。
完璧な殺し屋と売れない俳優がそれまで生きていた世界とは全く別な場所で、
それぞれに生き方を探りつつ、どうやって己の道を切り拓いていくのかが気になるところ。
そして彼らに惹かれた人達はどんな役割を果たしていくのだろうか。
記憶を無くしたヒョヌクを何かと手助けしながら、やがて彼に惹かれていくリナ(チョ・ユニ)。
この気持ちはもしかして恋なのかもしれないと感じたときに、
ヒョヌクの本当の姿を知ってしまったとしたら…
物語が進む度に裏切られる展開が待っていて、気が付けば終盤に差しかかり…
相手は知らないのにこちらは知っていて、それ故に起こるすれ違いもまた見どころ。
伝えれば済んでしまうのに、そう出来ないもどかしさが笑いにつながっていく展開も見事。
それを自然に演じ切っている韓国俳優陣のレベルの高さにも驚かされる。
韓国語が分からない人でも、吹き替えではなく、是非とも彼らの生の声で台詞を聞いて頂きたい。
伝わってくるものが絶対に違うはずだから。
ユ・ヘジンファンなら見逃せない
こう言ってしまってはなんだけど、決してイケメンとは言えないタイプのユ・ヘジンが、
今回は、大真面目で渋い殺し屋の役を熱演している。
記憶喪失によって序盤にキャラは変わるものの、ヒョヌクの根本にあるのはやはり気真面目さ。
なにをするにもキッチリで、抜け目が無いのだ。
生活の場に現れる完璧主義者の「あるある」癖が、観る者の笑いを誘う。
そして暮らしの端々についつい出て来てしまう、自分がこれまでに身につけたスキル。
頭で考えるより先にサッと行動に移してしまう凄腕の殺し屋の性(さが)。
自分で自分の行動が理解できない記憶喪失男。
そんな男をちょっぴりコミカルに演じられるのは、彼ぐらいしかいないのでは?
と思わせるほどに、この映画でのユ・ヘジンは、見事にヒョヌクになり切っていた。
物語の中に現れる劇中劇の仕立て方もまた見事で、
そこに至らせるまでの伏線がかなり序盤から緻密に張られている。
もちろんこれは観終わった後に分かるのだが…。
世の中には巨悪や権力に立ち向かう映画は多いし、
韓国映画や韓国ドラマの中にもそういうものは多いけれども、
この作品では、そういうものを力でねじ伏せるいわゆる「勧善懲悪」ではなく、
市井の庶民が綿密にキッチリ作戦を立てて相手に一泡ふかそうとする展開。
主要人物の人生のバックボーンの提示を脇役のベテラン俳優が担うのは
韓国映画が得意とするところだけれども、
この映画でもそういうシーンがいくつかあった。
そのシーンによって彼や彼女がどう生きて来たか、
今何を背負っているのかがこちらに如実に伝わって来た。
そういう意味では短い出演ではあっても、ベテラン陣の役どころはとても重要で、
特にいつかは息子が売れる俳優になると信じて、
一人床屋を営むジェソンの父親役を演じたキム・イクテさんのさり気ない演技は秀逸だったなぁ。
観終わった時にあの思わせぶりな始まり方に思わずうなずいてしまうこの映画。
一人は仕方なく、一人は選んで入れ替わった人間が、
それぞれの新しいステージで暗中模索しながらどう生きていくのか、
選んで入れ替わった側は、もしかしたら自分は死ぬかもしれない恐怖と隣り合わせの、
これは実はシビアな問題なのだが、
そこのところがこちらをハラハラさせながらも、とてもコミカルに描かれていて、
役者陣だけではなく監督の演出の見事さにも感心させられる映画だった。
そして「殺し屋」という一見おどろおどろしいテーマを掲げながら、
怖さは「笑える怖さ」にとどめおき、
実際に根底に流れているのは人助けだったり、人を思いやる気持ちだったりという、
人間が持つ温かい心。「情」。
それらを嫌味なく描いている脚本の良さにまた感動してしまった。
二人のヒロインの役どころもまた重要で、
物語のポイントの切り替え役は、この二人が担っていた。
スリル満点でドキドキ物のアクション映画やサスペンス映画。
大スペクタクルのSF映画や、近未来を予感させるディザスタームービーも楽しいけれど、
土曜の夜、家族みんなが集まって、気楽にゆったり映画でも見ようか?となった時、
この作品は子供からお年寄りまでが楽しめると断言できるぞ。
韓国映画も韓国ドラマも韓国の俳優も全く知らない、観たことが無いと言うあなたでも、
観始めたら最初から引き込まれ、その展開に引きずられ、気が付けばクライマックスが近付き、
最後にはまたどんでん返しが待っているというこの『LUCK-KEY/ラッキー』。
是非一度観て頂きたい。損はしないはずだから。
そして名優ユ・ヘジンの魅力に、是非触れてみて頂きたい。
っつーごとで、ユ・ヘジンの映画について、熱く語ってしまったじゃ~。
へば、まだにし~(@^^)/~~~