支え合ってこその石垣 済州島の石工職人

職人。手作業で物を作りだす人。
日本にも古くから様々な分野の仕事に於いて職人の存在があった。
身近なところでは大工、畳屋、庭師、塗装、左官…。
食べ物の分野でも、寿司職人と呼ばれる存在もある。

現在は「技能士」と呼ばれるようになった職人。
実は俺は看板屋で働いていた頃に国家試験を受けて、
広告面ペイント仕上げ、粘着シート仕上げそれぞれ1級の資格を持つ技能士。
昔なら看板職人と呼ばれていたかも知れない。
確かに職人気質はある。だから職人の仕事ぶりは気になる。

「キム・ヨンチョルの洞内一周」2019年8月24日 済州島編その1。
登場したのは、石垣作りをしている石工職人だった。

済州市の都心部を散策中のヨンチョル氏。
石垣工事中の家を発見。

作業中の職人さんと目が合い、あいさつを交わす。

「石垣を築いていらっしゃるのですね」とヨンチョル氏。
応えるのは石工のチョ・ファンジンさん(조환진 씨:jo-hwanjin sshi)。
「はい。この石垣の石は済州にある玄武岩です」
※玄武岩:玄灰色~黒色で多孔質の噴出火山岩。
火山活動によって生まれた済州島を特徴づける石である。

済州の方言に興味が湧いたのか、ヨンチョル氏が
「石垣を積む職業を済州島では何と言いますか?」と尋ねると…


済州の言葉では”돌챙이”(dolchaengi)です。
※aeは、口を広く開けたeの発音。
“~장이”(jangi:手工業者の職業名に付ける接尾辞)って言うじゃないですか。
“돌(石)장이”を、発音しやすいように”돌챙이”に変えたのだと思います。
と、ファンジンさん。

話を聞き終わったヨンチョル氏。
決して体格の良くないファンジンさんが石を軽々と持ち上げるのを見ていたので、
自分にもできるだろうと挑戦してみるものの、重くてすぐに断念。

‘아이고,무겁습니다’(aigo, mugopsseumnida:あぁ、重たいです)と、
持ち上げるや否や、すぐに地面に置いてしまった。
※eu:口を横に開くiの形でuと発音。

それを観ていたファンジンさん。
石工の仕事は、済州島の男の自尊心です。

海女は済州の女性の自尊心じゃないですか。
済州の数え切れない石は済州の男性が積み上げたものです。
これは代々子孫に譲るべき済州の自尊心です。
と、誇らしげに語る。

昔から「風と石と女が多い、三多の島」と呼ばれてきた済州島。
その言葉通り、島のどこを歩いても普通に見られる石垣。
でもこの石垣には済州島の人達独特の誇りが込められているんだね。
そしてこの石垣は強い風から家や家畜を守り、
人と人を繋ぐ役割も果たしてくれている様だ。

ファンジンさんは、大学2年の時に江原道に旅行に行き、そこで衝撃を受けた。
国内のどこに行っても石垣があるもの思っていたのに、宿の窓から外を見ると石垣が無い!!
その時に、故郷の済州の石垣は宝物なのだと気づき、石が好きになったと言う。

ファンジンさんのアボジは、80歳まで石垣を築く仕事をしていた。
ファンジンさんは結婚後、新婚の家を石造りの家にするために、
アボジに石工の仕事を学び、それから自然に石工の道を歩む様になった。

2008年に完成した石造りの家


2019年に完成した石造りの家

済州島玄武岩は細かく穴が開いていて、穴のない他の地域の石よりは軽く、
石の表面はザラザラしていて、
石をのせても滑りにくいのだそうだ。

石の形を見立てて載せるから、下の石とピッタリ合う。職人の鋭い眼力。

でもいびつな石もあるから、そういう石はハンマーでたたいて均す。
この辺りには熟練の手技が生きて来る。職人だけが分かる微妙な感覚。

どうしても隙間が出来るときは小石を埋めて支えにする。

この大きな石だけで石垣になるのではありません。
隙間の小さな石が支えてくれないと揺れるんです。

人も同じじゃないですか。
後ろから助けてくれる人、支えてくれる人が必要なように
石垣もお互いに支え合ってこそ台風が吹いても崩れない石垣になるんです。
石垣も人間社会もバランスが重要だと熱く語る石工職人のファンジンさん。

水平を出す糸を頼りに、大小さまざまな石を選びながら積み上げていく。
見た目も大事だか、崩れにくい強度にも配慮しなければならない。

そうして出来上がった見事な石垣。

支え合う事の大切さを体現しながらく積み上げる石垣。
この石垣には、石工職人 ジョ・ファンジンさんの人生哲学と、魂がこもっている。


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