「乱暴なロマンス」にイ・シヨンの”一世一代”を観た

人は誰もが自分はいつでも輝き続けていると思いたい。
ある時は強く、ある時は微かにだけれども。
そしてまた誰もが、際立って輝く時がある。
一生に一度かも知れないし、何度もその機会が訪れるかも知れない。

ジャズのテナーサックス奏者、ソニー・ロリンズの、
1956年発表の「サキソフォン・コロッサス」という作品は、
ロリンズが26歳の時のものなのだが、未だに最高傑作と言われ続けている。

いや、もちろんその前後に出した作品も傑作揃いなんだけどさ、
選曲から、ソロのフレイジング、伴奏者との息の合い方、
何もかもが完璧と言える作品はそう無いって事だろうね。
この時が最も輝いていたと言えるのかもしれない。

俺が「乱暴なロマンス」ってドラマを観て、
主演のイ・シヨンに感じたのは、その一世一代の輝きだった。

このドラマ自体は、サスペンス含みのラブコメ。
彼女が演じるのは、小さな警護事務所の警護員。
ひょんな事から、自分が熱烈に応援する野球チームのライバルチームに所属する
大嫌いでたまらないスター選手を警護するハメになる。

同時期に放映されていたMBCの「太陽を抱く月」に視聴率では及ばなかったが、
ボクシングの国家代表まで行った高い運動能力を生かして自らこなしたアクションシーンや、
変顔、下品な笑い方連発、
汚い言葉も使いまくった体当たりの演技がドラマの面白さを倍加させていた。

イ・シヨンは、この前作の「ポセイドン」で初主演の座を得て、
本作以降も主演を演じ続けているが、
この「乱暴なロマンス」での彼女は、他のどのドラマよりも異質で斬新だ。
つーかねぇ、イ・シヨンじゃないのよね。

いや、もちろんドラマで演じている時は、本人ではなくその役になっているし、
役の為にショートカットにし、ボーイッシュに変身したのも異質さの一因だろうけど、
そう言う意味だけではなく、もうイ・シヨンが演じている様にすら見えない。
そのくらいに、多分彼女はこの役に入りこんで、
ユ・ウンジェという警護員になり切ってしまっていたのだろう。

彼女の役へののハマり込みに共演者も引っ張られる形で、
もう一人の主演だったイ・ドンウクは他の作品では見られない役柄がハマっていたし、
イ・ウォンジョンなんかはいつも以上にブッ飛んだ芝居をしていた。
視聴率なんかに関係なく、演者たちが乗りに乗った、熱いドラマだったと言える。

イ・シヨンは、この後も本作同様、喜劇俳優の様にドタバタの演技もこなしながら、
恋して傷ついたりする様な心の機微もコミカルに表現する、
そんな路線で何作かは行くのかなぁと思ったら、全くそうではなかった。
つまり、このイ・シヨンは、今回限りだったのだ。

当時29歳だった俳優イ・シヨンが、
おそらくこの時だけしか発することが出来ない一世一代の特別な輝きを見せてくれた、
この前と、これから後のドラマの中のイ・シヨンとは全く異質の姿を見せてくれたのだ、
そんな貴重な作品が、2012年のKBSドラマ「乱暴なロマンス」であった。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする

コメントの入力は終了しました。