スーパーギタリストの意外だった生い立ち

ギターを弾くうえで、タッピング奏法と言えば、
今でこそありふれた技術になってしまったが、
これをライトハンド奏法としてギター少年の間に広く知らしめたのは、
今は亡きあのエドワード・ヴァン・ヘイレンだ。

ヴァン・ヘイレンのデビューアルバムが出た頃、
14歳からギターを始めていた俺の志向は、ロックからブルースへ、
そしてジャズへと向かっていた。
そんな時に「これ、聞いてみろ」とバンド仲間の友人が持って来たのが、
“Van Halen”だった。

ロックギターはクラプトンやベック、ジミ・ヘンドリックスなど意で学んで、
彼らの影響を受けたであろう若手のギターにはもう大して興味が無かったのだが、
友人が「凄いから」と言うので聞いてみた。

1曲目がかかる。やっている音楽は痛快なアメリカンハードロック。
ギタリストの印象は、手癖が独特、技術はあるな、程度だった。
もう分かった。視聴は終わっていいんじゃないかと思っている時にかかった2曲目。
鮮烈なソロギターに衝撃を受け、しばし悩まされることとなる。
音はとれるんだけれど、どうやったら弾けるのかが皆目分からない。

2曲目の衝撃の余韻が冷めやらぬ内に鳴り出したのがキレッキレの”You Really Got Me”だ。
キンクスのとは比べられない、別のロックに仕上がっていた。
そしてエディは2曲目と同じ不思議な弾き方を少し交えてソロを弾いている。
その頃、速弾きのギター弾きは何人もいたが、
それとは異質の発想、技術、音も持っている。
何なんだ、このギタリストは???

今みたいにネットなんか無い時代。
レコードを聴いて悩まされてしばらく経って、
深夜テレビの音楽番組で映像を見て初めて弾き方の秘密を知った。

このタッピング奏法自体は戦前からあり、
ロックギタリストでもやっている人がいたそうだが、
音楽性を伴った洗練された技術として完成させたのはエディが最初だ。


その後はほとんどのギタリストにごく普通に使われるようになり、
教則本にも載る一般的な技術の一つになってしまったが。
まぁしかしエディの様に弾いても、それはエディの二番煎じ。
スタンリー・ジョーダンの様な例外はいるが。

ところでこのエドワード・ヴァン・ヘーレンと言う人。
アメリカ生まれのアメリカ育ちだと勝手に思い込んでいたが、
実は父はオランダ人、母はインドネシア人で、オランダ生まれだったんだな。
そして自由奔放な演奏ぶりからは全く想像できなかったが、
少年時代は「混血」である事を理由に激しい虐めに遭っていたと言う。

その虐め禍から逃れるために両親はアメリカに住まいを移したが、
そこでもまた英語が話せない事を理由に白人生徒からの酷いいじめを体験。
しかし彼の音楽的才能がそれらの苦しみから解放してくれた。

…と、考える事は簡単だが、
彼が飲酒と喫煙を12歳から始めるようになり、、
後にアルコール依存症、薬物乱用者になってしまった要因として、
幼い頃からの酷い虐めが考えられるのではないか。
それが65歳で病死するに至る遠因となったと言えるかもしれない。

ギタリスト、音楽家として順風満帆だったように見えた彼の人生は、
人間社会に蔓延るどす黒い牙で深く傷つけられていたのだ。
それが無ければ、彼はもっと多くの音を残し、
更なる新しい奏法を生み出していたに違いない。
そして今日、家族や友人たちと69回目の誕生日を祝っていたはずだ。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする

コメントの入力は終了しました。