1976年当時の日本のロック界と言ったら…
と、その前に。
そもそも当時の日本に於いて、
本物の「ロック」なんてものは、日本では超マイナーで、
米英で若者の音楽として発展し、進化していたロックは、
日本のメジャーなマスコミで取り上げられることはほとんどゼロだった。
あぁ、GSなんてブームなんてものがあったけど、ありゃ歌謡曲。
GSブームと前後して、あるいは同時進行で、
売れる売れないカンケー無しで、自分達もロックをやってみたいという人達がいて、
アンダーグラウンドで、シコシコ自分達のロックを生み出そうとしていた。
そのピークが1976年頃だったんじゃないかな。
そんなときに突如として出たアルバムが、これさ。
charが、まだ21歳の時に出したデビューアルバム。
charは…
小6の時に、当時高価だったワウペダルを使って勝ち抜きエレキ合戦ですげープレイをしてたとか、
中三の頃には既にスタジオミュージシャンとして、ロック系のマニアックな仕事をしていたとか、
17歳の頃には、大御所・金子マリとスモーキー・メディスンを結成したとか、
天才と言われるにふさわしく、デビュー前から逸話の多いギタリストだった。
早熟すぎる感のあるcharは、その音楽的な感覚も独特だった。
当時、日本の(歌謡界と一線を画していた)ロック界は、
ブリティッシュ系のハードロックやプログレッシブロックを追及する関東のバンドと、
ブルース一本やりや、アメリカ南部系ブルースロックに根差す関西のバンドと、
非常に雑だけと、大きくそんな感じに分けられていたと思う。
charは、そのどこにもいなかった。
歌謡曲っぽいテイストで、ちょっと売れてみたい感じの曲もありながら、
マイナーなNSPの天野氏の詞に曲をつけた作品があったり、
当時のフィラデルフィアサウンド的な曲に、タワーオブパワーの感じをのせたり、
1976年の日本のロックアルバムとしては、非常に異質だった。
このアルバムの中でも俺が好きな曲は、
charってジェフ・ベックが好きなんだなぁ~って感じさせる、
トリッキーなイントロと自由奔放なギターソロが聞ける”Smoky”と、
同じくジェフの匂いがするキレッキレのギターソロを聞かせてくれる”I’VE TRIED”。
いずれも、当時の日本のロック界にあっても異質中の異質だった。
そのアルバムが出て少し経った頃、
彼がNHKラジオ第一の「若いこだま」って40分番組でDJしててね。
「俺さぁ、売れないロックミュージシャンをお休みして、
ちょっとアイドルみたいな感じでいっぺん売れてみるね。みんな見ててね」
って言って番組辞めて、『気絶するほど悩ましい』を出して実際に売れた時は笑った。
そこからちょっとだけアイドルくさい仕事を続けて、
世間の馬鹿共に「あの人は今?」なんて言われた頃には、
元の、「自分が好きな音楽をやるスーパーギタリスト」に戻っていた。
その少し後に出したアルバムが、この”Tricycle”。
メンバーの二人が既に鬼籍に入ってしまっているのが哀しい。
1980年、charが25歳の頃の作品だが、
この中の”Cloudy sky”でのギターソロは、もう円熟の極み。
charも、早熟の天才だったんだなぁと、何度目かの再確認をしたのだった。
日本ではさぁ、ポピュラー音楽の元締めは歌謡界だからね。
その歌謡界はと言うと、歌い手の実力なんか無視で、
歌い手に絡んでる権力者の利権が優先の世界だから。
それを隠した「やらせ」の世界をTVで見せられてるから、
日本人は毒々しい世界を知らないし、
本当に実力がある音楽家、歌い手を知る事も出来ないのよ。
逆に言うと、日本に於いては、本物が陽の目を見る事も出来ないって事。
charみたいに本当に凄い人が、
そんな日本と言う文化的・精神的に超狭い排他的社会で安寧に生きて行くのは、
本当に難しいことだと思うよ。
そして、charの本当の凄さは、
残念ながら、日本の中では今もほとんど伝わっていない。