またまた古い話で恐縮してしまうのだが、
俺が中三の頃だから、今から50年程前の事。
ビートルズきっかけでギターを始めた俺は、
楽器店の書棚でビートルズのパート譜を見つけて買った。
それまでずっと耳コピーをしてたんだけど、
少し楽をしたくなったのと、ドラムの譜面を見てみたくなったから。
テレビでバンドの演奏を見てもドラマーが大写しになる事はほぼ無くて、
どんなふうに叩いているのか気になってたんだよね。
譜面の最初に出てきたのが”Nowhere Man”だった。
なるほど、8ビートだからハイハットを1小節に8回叩くのか、とか、
ハイハットの3、7拍目にスネアが入って、
頭と4,5拍のところでバスドラをドン、ドドンとやるのね、とか、
基本中の基本があっさり理解できた。
基本が分かるとレコードをかけていてもドラムの聞こえ方が違ってくる。
何をやってるかが映像で入って来る感じになって、
実際、それから2年後に学校のジャズ研に入って初めてドラムに触れた時、
まるでそれが初めてではないかの様に、リズムを刻むだけなら簡単に叩けたし、
その年の学園祭では、ギターではなくドラムでセッションに参加したりもした。
翌年の学園祭では、ある事情でドラムを欠いたバンドに、
急遽ドラマーとして参加してロックンロールをやったりして、
複雑な構成でない曲ならぶっつけでも叩ける自信もついた。
その後は自分てバンドを組むことになってドラムを叩く事も無くなったが、
レコードを聞く時には、ドラマーの腕前にも興味が向くようになった。
そんな時に耳にしたのが、日本のクリエイションと言うバンドのドラマーだった。
竹田和夫と言うギタリストを聞きたくて1枚目のアルバムを買ったのだが、
それまでに聞いたことのない、つまり俺の頭の中には映像として浮かばない、
全く斬新なドラムの音が聞こえて来た。
それまでにはジンジャー・ベイカーや、コージー・パウエル等々、
優れた技術と感覚を持ったドラマーを聞いて来てはいたのだが、
何故かクリエイションのドラムだけは、彼らとは違う不思議な味がしたんだな。
樋口晶之と言うドラマーだった。
ロックンロールやポップスの曲なら叩けるわい、といい気になっていた俺だが、
彼のドラムを聞いたとたんに、ボキッと鼻っ柱が折れる音がした。
当たり前のことだが、何事も実際は奥がとてつもなく深いのだ。
その頃は本気でプロのギタリストになりたいと四苦八苦していたが、
もしドラムに対しても同じ態度で挑んでいたら、
簡単に叩けるなんて舐めた感じにはなれなかったはずなのだが、
その頃の俺は…
挨拶程度が交わせるようになって、外国語が出来る気になっている人
…の様に、調子こいていた訳だね。
この時の樋口さんのドラムとの出会いがキッカケとなって、
バンドにおけるドラムの重要性というものをより強く理解できる様になった。
ただリズムを維持して、おかずでメリハリをつけるなんてぇものではないのである。
17歳のあの時に、俺の耳がまた少し開かれたのだ。
その樋口さんは、残念なことに2017年にあちらの世界へ旅立った。
ご存命なら、本日2月24日で70歳になるはずであった。
俺の耳を開いてくれた恩に報いるために、
俺はこれからもずっと音楽に関わり、ギターを弾き続ける。